「東京」に思うこと

東京に生まれ、東京で育ったからこそ、今や傍から東京を見るようになって思うことがたくさんある。

あの人間の渦の中で違和感なく育ったから、新宿・池袋・渋谷の雑踏、ギューギュー詰めの地下鉄、環七の交通事故、歌舞伎町のポン引きや、世界一モノが揃う買い物天国だって、私にとってはデフォルトのようなものだった。テレビに映るグルメ情報も、自分の近辺のことであるのが当然だった。中高と都心の学校に通い、大学も東京、銀行員でも東京だった。

30歳ちょっと前から海外に出たが、いつの間にかその東京の都市圏人口が今や世界一になってしまった。これは誇るべきことなのか。日本の他の全ての地域が人口減少に悩んでいるというのに。

3650万人の人口を支えるだけの流通やら交通やらエネルギーや水の供給やら下水やら、それ自体は世界のどの都市も真似ができないから、そのシステムを維持できることは賞賛に値すると思う。ファッションやら文化やらは、人間が集まるんだから栄えて当たり前だ。

私の銀行員時代の上司は埼玉県の東飯能というところから都心の支店に通勤していた。別の先輩は神奈川県の東林間、茅ケ崎、といった具合だ。この距離を毎日満員電車で往復するのだから、本当に頭が上がらない。エライと思う。でも、かわいそう。大きなお世話だと思うけど、これは明らかにキツイよ。

首都機能移転の話が何十年も前から言われているけれども、あれはどうなったんだよ。今や誰も声高には言えなくなっちゃったのだろうけど、阿武隈地方は残念ながらまずないのだろうな。気の毒だよ、国策でああいうことになってしまったうえに、人知れず見捨てられてしまうのだから。

東日本大震災で、一極集中のリスクを痛感したんじゃなかったっけ。それでも何も変えられないんだよ。なぜかって、物事を決めている人たちがみんな東京の中にいるから。政治と官僚とビジネスが常に近くに寄り添っていれば、便利で都合もいいはず。その仲間うちのどれかを地方に追いやることなんて、考えてもみないだろう。自分が追いやられちゃうのなんて言語道断なんだろうし。

「日本を取り戻す」っていうけど、本当に日本全体を取り戻そうと思ってる?

まぎれもなく私にとって東京はふるさとだし、友達だって親戚だってたくさんいるし、東京は大好きだ。出張で行ってワクワクする。

今回の2020年のオリンピック招致だって、そりゃあ東京に決まってほしいと心底思う。明後日には決定するこの段階になれば、だ。

でも元来なら、仙台でしょう。震災の9年後の仙台の復興を世界に見せつければいいじゃないか。あるいは大阪か、広島か、福岡でしょう。2016年招致の時は東京と福岡が国内では立候補して、石原慎太郎を筆頭に政財とメディアが結託して福岡をいとも簡単に蹴散らしたじゃないか。金だって人口だってメディアだって政治力だって、福岡が東京と競争したら勝てっこないのは誰にだってわかることだ。あれを見たら、2020年招致の今回、他のどこも立候補なんかしないよ。今回の東京立候補も石原の無責任辞任の前のことだから、他はどこも手を挙げなかったのでしょう。石原も石原なら、地方も地方だ。これじゃあ何も変わらない。国家としてのgrand strategyなんかありゃしないし、地方にもその気概がうかがえない。

こういう批判めいたことを今さら言うなと、非難を浴びせて封じ込めるのは世の常だ。盛り上がると自由な言論を許さない風潮は、9.11の時のアメリカでもそうだった。私が言いたいのはそうではない。私のふるさとの東京でオリンピックをやってほしいし、子供たちにも現場を生で見てほしい。

私が気にするのは「なぜ日本か」ではなく、「なぜ東京であって日本の他の都市ではないのか」だ。私は粛々と、地方で精を出そうと思う。