アベノミクスについての対論、産業と労働

2000年過ぎ頃からスティグリッツ先生が繰り返し言ってきたことと整合性は取れていて、無責任な感じはしません。が、ここまで言い切れるほど私自身はいわゆるアベノミクスに確信はないのです。

Project Syndicate
The Promise of Abenomics by Joseph Stiglitz

仮に金融政策によって物価が2%上昇しても、本当に資金需要が生まれるのでしょうか。長期金利が下落することでより投資が活発になるほど、日本の企業は市場の動向に感応的なのでしょうか。過去20年の記憶もあり、そんな簡単にはいかないのではないでしょうか。しかも国民の消費性向を刺激するには、給与所得が上昇しない限り難しいのではないでしょうか。この所得の上昇こそ、カギになってくるように思います。

同じくProject Syndicateより、Martin Feldsteinの記事:
The Wrong Growth Strategy for Japan 

立場は真逆なのですが、Feldsteinの方が結局は根本的な問題を指摘していないでしょうか。人口減少や貯蓄の問題などは子育て環境の整備や社会保障の改革と切っても切れない関係のはずで、本当はどちらも喫緊の課題なのに、安倍さんはこの辺の改革のことをあまり語っていません。子育て云々については庶民感覚が欠落しているからかもしれません。社会保障改革は、不人気だから。

社会が豊かになるためには、産業界だけとか、特定業界だけとか、従業員だけとか、富裕層だけとか、老人だけとか、自分だけとか、部分的なアプローチでは結果は出ません。現在の日本経済の問題は、できるだけ多くのステークホルダー(利害関係者)が問題解決のために議論を行うことで、徐々に解決に向かうものなのだと思います。このことは、上記の雇用・被雇用の関係や社会保障の問題など多くのことが複雑に絡んでいることからも明らかです。

まあ、議論ばかりしてても物事は進まないんですけどね。ただ、発言をしなければ意見が反映されることはないわけです。

同志社大学で、近代日本の産業と労働についての授業を2013年前期に担当します。英語による授業で、履修学生のほとんどは留学生です。出身地はアジア、ヨーロッパ、カメルーン、ハイチなど様々です。そのため、自然と色々な意味で「日本的」なるものについて議論を行うことになると思います。前半は明治維新以降の変遷をレクチャー形式で、後半は現在の日本の産業と労働の問題についてテーマ別に学生によるパネルディスカッション形式で執り行います。労働問題となるととかく左翼的な内容の文献が多いのですが、いかにフェアに授業を運営するかが私にとって重要な課題です。