フィッチによる日本の格下げ

フィッチが日本国債の格付を「AA-」から「A+」に下げました。ちょっと前ですが、5月22日(火)のことです。一番気になるのが投資家の反応ですが、財務省データを見る限りは、ほとんど動きがなかったようです。
http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/jgbcm.htm
日中の動きまでは見えませんが、仮に多少動きがあっても同日中には収斂してしまう程度だった、ということですね。よかったよかった。格付機関のプレスリリースによって、実態経済とはかい離した投機の動きを誘発してしまう可能性があるので、こういうニュースを見ると少しハラハラします。

さて、なぜこのタイミングなのでしょうか。プレスリリースによれば今回の格下げの理由は主に「切迫感に欠ける」「緩慢な」財政再建への対応にあるということなので、ヨーロッパ諸国の財政問題が云々されているまっただ中で、社会保障と税の一体改革について与野党や与党内でいつまでも足の引っ張り合いをしていることにしびれを切らした、と見るのが妥当かな思いました。

もちろん、財務省はそれに対して反論しないわけにはいきません。
フィッチ宛返信大要 : 財務省
このページを見てまず最初に目についたのが、「いいね!」ボタンです。お役所中のお役所である財務省も、ここまで来ちゃいました。そしてこの文章の官僚的だこと。これでも随分官僚色は消したつもりなのだと思いますが、広報で流すような文章ではありません。「・・・分析には留意。」「推定の前提如何。」などの体言どめは、霞が関の外では趣味の悪い文です。思い返せば、私もかつて銀行員時代の稟議書でそんな言葉づかいをしていました。

本題に戻りますが、この反論も相変わらずで退屈です。「定量的に説明せよ」という点については、格付の付与はscientificに見せかけたarbitraryなものであるため、数式に当てはめて格付が決まるわけがない。これはもちろん、財務省も知ってのご批判です。

そして常套文句「日本国債は現在95%が国内でかつ低金利で消化されている」と。これは外貨リスクはほとんどないと言っているにすぎません(全て円建なので当たり前ですが)。主要な日本国債の保持者は簡保郵貯・民間金融機関・個人というところですが、一方で彼らが国債を手放さない保障はどこにあるのでしょう。実際、民間銀行が保有する国債の平均残存期間は年々縮んでいっています。国内の保有者といえども日本国債へのリスクを認識しており、分散化を加速させている、ということです。

簡保郵貯は財政を癒着で支える大事な機関であり、その意味で昨今の民営化の逆行は、メディアに曝されないところで「握り」があっちゃったりするのかもしれません。あるいは行政指導かなにかで、政府から民間金融機関に国債を吸収するような圧力があるのでしょうか。はたまたあるいは、単に現時点ではリスクが低いと見做されて、貸し先のない金融機関が自発的に買い支えていて、その結果として国債の安定が保たれているのでしょうか。真相まではわかりませんが、この神業のようなデリケートな構造が保たれていること自体が奇跡的だと思うし、そう長くは続くはずがありません。

以前 格付会社と信用 - Econ少年漂流記 で書きましたが、格付会社が抱える問題や矛盾は大いにあります。しかし、こういった警鐘を真摯に受け止めて、月並みですが、やっぱり早く対処しなければ、いつかは国債の信用が悪化するときが来てしまうかもしれません。