竹中平蔵氏

月曜日夜にNHKでやっていた「マイケル・サンデル 究極の選択 『許せる格差 許せない格差』を興味深く視聴しました。
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/harvard.html

サンデル氏による議論の運営の明快さは何度見ても圧巻で、しかも今回は以前の東大で行われたものと違い、しっかり締めの言葉に説得力がありました。自分の授業運営を振り返り、やり方を再考しなければいけないと思います。

興味深かったのは、サンデル氏がゲストの竹中平蔵氏について、事前に相当量の情報を得ていたことです。おそらく番組制作側からのインプットだと思いますが、日本における派遣労働者の人口比率増加は竹中氏のせいだ、というシナリオが前提としてあったようでした。結構議論の核の部分まで用意周到な番組だったんだな、という印象を受けました。竹中氏がこのシナリオについて知っていたかはわかりませんが、どんな議論でも受けて立とうと思われたことは大体想像つきます。

では、竹中氏についての世の評価について、どの程度妥当なのでしょうね。

竹中氏が経済閣僚として活躍していた当時、日本経済の根本的病理(「の投影」だと私は考えます)であるデフレから脱却するために、銀行の不良債権処理を最優先していました。銀行への公的資本注入は記憶に新しいと思います。論理としては、資金供給のパイプとしての銀行機能が改善されればデフレは収まる、ということだったのだと思います。しかし、デフレは信用供給機能の問題ではなかったわけで、以後もデフレ基調は続きました。つまりは、部分改善に留まったわけですね。一方で、銀行の体質は事実改善し、期せずして訪れた金融危機においても日本の金融機関はさほど苦境に陥ることはありませんでした。

構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌

構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌

都合の悪いことは書かれていないのかもしれませんが、政治家としての氏の功績はあったものと私は考えます。

竹中氏への批判の多くに、派遣社員の人口が増やした、という指摘があります。これはたいへん多くの経済本やメディアでとり上げられる話で、必ず小泉・竹中両氏が槍玉にあげられますね。世間の人々は雇用の派遣シフトを促したと言い、竹中氏は人々の労働に対するコミットの仕方の選択の自由を尊重した、という論理で、これはおそらくどちらも事実なのだとは思います。労働における正義とは何かを考えるとき、視点が異なることで判断も異なるわけですね。サンデル氏の番組でもここに触れていました。

一方、派遣社員の人口がどう直接的に格差を拡げたのか、もちろん計量的分析は数多ありますが、因果関係を決めつけるには判断が難しいように思います。かく言う私も「ハケン」の部類に含まれるのですが、格差自体はデフレが根本的原因だ、と考えます。そして、デフレ自体の原因は需給のかい離にあると考えます。

竹中氏が経済閣僚として目立った行動と言論を行ったことは、一定の評価をすべきでしょう。氏には個人的に前職でお世話になりましたが、私人としても、私のような若輩者への細かな配慮もされる人でした(それと政治家としての評価は別物ですが)。また、対等とまではいかないものの、日本人の中では世界のエコノミストとある程度伍してまともに議論できる人であり、世界への発信という面でも評価すべきと考えます。

世間でよく聞く竹中氏へのイメージは、時のリーダーの人気に乗じて好き放題やった「出る杭」というものでしょう。しかしこれには、先生に媚び売る童顔の学級委員がイジメに遭うような、理不尽と偏屈さが見てとれます。また、そう祭り上げたメディアも、狡猾で好きになれません。「何だかムカつく」と吹聴するやつ、確かにクラスにいました。そういう奴らが、実はついこの間まで氏を礼さんしていたりするのです。