特攻

昨日、中学・高校時代の同級生に声をかけてもらって、元特攻隊員の粕井貫次氏の講演会に参加した。

御年90歳でさすがに耳が遠く、また受け答えもスムーズとはいかなかったが、ご自身の記憶の中から言葉を発するときは起立して背筋を伸ばし、たいへんよく通る発声で語りかけられた。90分で終わる予定が、気付けば120分以上経っていた。実にかくしゃくとした方で、体は小さく温和な表情ながら、すごみのようなものを感じた。

粕井氏は19歳の時に海軍に入隊し、終戦時21歳のとき、8月10日には特攻待機30分前の状態を経験されている。その時の様子をインタビュー形式て記録しているのがこちらの本:

特攻 最後のインタビュー

特攻 最後のインタビュー

イデオロギーの面などは聞き手の置かれた状況、解釈、世相、価値観などによって異なるし、そこを議論する必要はなかろう。その現場にいた人の心境などをダイレクトに聞く経験は、その中身が戦争とか平和とか、民主主義やら全体主義やら社会科学的にどうだとかいう理屈とは別次元のものという印象をもった。仰るには、特攻の経験のおかげで、それ以外の人生経験の部分でも他者の数倍も充実したという。若くして死を受け容れそれと対峙したことで、生がより際立ったのだろうと、死の恐怖も知らない若輩の私には感じられた。