ツィメルマンによるベートーベン後期ピアノソナタ3曲

この冬のツィメルマンの来日が腰痛で遅れるようですが、聴けるまではじっくり噛みしめてガマンしましょう。なんといっても、今回はベートーベンの後期ソナタ3曲。氏がこれまでまとめて弾くには一種の恐れを抱いていたとされるものです。いわく、
「私はこのプログラムを前にするときほど怖れを抱いたことはかつてないのです。これまで手がけたリサイタル・プログラムのどれと比べても、これほどまでに大きな敬意と責任を感じるものはありません」
とのこと。

氏のインタビューなどは毎回興味深く(時には偏屈ですが)今回もこちらのリンクにパート1から3まであり、楽しませてくれています。特に印象的だったくだり:
「私はおそらくベートーヴェンが聞いたとおりのものを知っていますから、それを実現しようと試みます。しかし、それをコンサートホールで再現することは不可能なのです」

クリスチャン・ツィメルマン、ベートーヴェン後期三大ソナタへの挑戦 Ⅲ|ニュース|音楽事務所ジャパン・アーツ

ツィメルマンは間違いなく難聴になったベートーベンを仮構して、「棒を口にくわえて、ピアノの響板に当て、骨伝導で音を聞く」ことを徹底的にやったはずです。氏はこれまで、ピアノの技術や作曲家の内面の理解に飽き足らず、その響きにこだわって音響学を勉強して自分の思う通りの空間を自宅に作ったり、自分のピアノを輸送するために株式会社を起ち上げたり、その音楽に対峙する姿勢はストイック過ぎるほどでしたから、難聴になったベートーベンが聴いた音の探求をしていたのでしょう。一昨年あたりに活動停止されていましたが、たぶん改めて丹念に音楽に向き合うための時間を作ったのだと想像しています。

演奏史に残る名演になるのではないかな。