大恐慌と今を比較した雑感(やはり個と全体の不一致かな)

1920年代の金本位制(つまり通貨は固定相場制)の時代、経常収支赤字国にはそもそも物価下落圧力がかかり、経常収支黒字国では逆に物価上昇圧力がかかるはずであった。しかし現実には、為替による自動調整機能がなく、経常収支黒字国は物価が上がると財・サービスの価格が高くなって交易条件が悪化するため、インフレを抑制する動きをとった。つまり、金融を引き締めた。

このことにより、理論上は金本位制は世界全体でバランスが取れるはずだったのが、現実には世界の物価は下落していった。大恐慌以降、結局この金本位制は破綻していった。

21世紀に入り、金融危機以降、世界中で今度は一気に金融を緩和した。理論上は為替の変動による調整機能によって長期的には経常収支がバランスが保たれるはずである。しかし実際の為替変動は、クロスボーダーの非金融取引によってではなく、9割以上が機関投資家や投機マネーによって決まっている。

為替安競争が起こり、資金がジャブジャブに供給される。資金はラッキーなら民間の資金需要に回るが、多くは商品市場等に出回るか、財政を穴埋めする。

ラッキーにも民間の資金需要に回った分だけは、景気浮揚に効果はある。

商品市場に出回った分の資金は、エネルギーや作物などの商品市場に流れ、その分が商品価格を引き上げる。しかし、商品価格の上昇だけを見ればそれはコストプッシュの要因で、景気浮揚という目的のためにとられる手段であるべき金融緩和の意味としてはニュートラルになる(地球規模で見れば)。商品を売る金額とそれを買う金額は同じに決まっているからである。しかし、商品価格の上昇は中東、ロシア、アフリカなどの国々が抱えている政治経済的問題を引き起こしており、コンゴなどのようにそれが慢性化して泥沼にはまっている国々もある。

一方で財政の穴埋めに回った分は、物価に対する影響は基本ニュートラルである(財政出動によるわずかな上昇があったとしてもここでは無視する)。しかし、金でも銀でもなく政府/中央銀行の信用だけで貨幣が取引されているので、膨張を放っておけばこの構造はいつか破綻する。この影響は計り知れないし、既に欧州圏で発生している。

1930年代の大恐慌の時は、金本位制から脱すればどうにか修正できた。今の問題は、極端な話、世界中の信用市場全体をぶち壊す可能性もあり、相当慎重にモニターしながら昨今の「一時的処置」を片づける必要がある。

商品市場にしたって国債等にしたって、そこを支えるのは機関投資家であり、その個別のinterestが世界経済全体のinterestと一致するとは限らない。